Looks Could Kill


If looks could kill, I would have been dead by now.


 「もし第二のキラが顔だけで人を殺せるとしたら…」
 第二のキラから送られてきた日記のコピーを片手に、月は少し首を傾げるようにして頬杖をついた。
 「厄介なことになったな」
 微かに細めた瞳を縁取る長い睫毛が、午後の日差しに透けて金色に輝いている。竜崎は考え込む月の顔をまじまじと眺めて言った。
 「月くんはとても奇麗な顔をしているんですね」
 「はあ?」
 唐突かつ意外な方面から寄せられた賞賛に月は一瞬驚いて、それから心底嫌そうな顔になった。
 もちろんこの手の褒め言葉は生まれてからこの方散々言われ続けて慣れてはいるが、それでもこいつに言われると正直気味が悪い。
 「なんだよ、流河。突然そんなこと言ってどういうつもりだ?」
 「いえ前々から思っていたのですが、なかなか言う機会がなくて」
 「思ってたって言わなくていいよ。それに僕は男だから、男から奇麗だなんて言われても嬉しくないし。それとも何、流河ってもしかしてそういう趣味?」
 「ここでは私のことは竜崎と呼んでください」
 「否定しないんだな、竜崎」
 「何をです?」
 聞き返されると思っていなかった月はつい口籠り、ああ、と竜崎は頷いた。
 「男性と女性どちらを恋愛対象にするかという質問でしたら、基本的には女性だとお答えしておきます」
 さらっと言われて月は拍子抜けした。
 「がっかりしましたか?」
 「ははっ、まさか」
 月の笑顔が引き攣った。
 「むしろ安心したよ。あんまり竜崎が僕に興味あるみたいだから、てっきりそういう趣味なのかと心配してたくらいさ」
 「心配しなくても大丈夫です。たとえそういう趣味だったとしても、私そこまで不自由してませんから」
 「ああそう…」
 少しムッとした。
 別に竜崎に欲求不満を感じて欲しい訳ではないが、そう言われると何だか不愉快になる。要するに慣れていないのだ。人から好意を打ち明けられこそすれ、お呼びでない、などと言われるのは。
 「不愉快そうですね」
 竜崎は無遠慮に月の顔を覗き込んだ。
 「まあね」
 「しかし、怒っていてもあなたの顔はとても奇麗だと思いますよ」
 「…それはどうもありがとう」
 ヒッヒッヒッと隣で笑う声がする。我ながら間抜けな返事だと思った。だけど、そう答えるしかないだろう?ほかに何て言えばいいんだ? 月は心の中で毒づいた。
 ますます険しくなる月の仏頂面をじっと観察しながら、竜崎は小首を傾げた。
 「信じてもらえませんか?こんな賛辞は月くんなら聞き飽きていると思ったのですが」
 「聞き飽きてる上に、今更どうしてそんなことを竜崎に言われなくちゃいけないのかわからないよ。口説いてるつもりじゃないんだろ?」
 「ええ、しかし性的指向や欲求不満の有無を別にしても、月くんの容姿は十二分に賞賛に値します。女性的な繊細さを持ちながら、軟弱な印象を与えない。目に力があるからでしょうか。あなたの顔なら女性にも男性にももてるでしょう」
 それに、と竜崎は至極真面目な顔で付け加えた。
 「もし月くんが顔だけで人が殺せるとしたら、今頃私は死んでます」
 「…」
 月は腕を組んで竜崎を睨んだ。
 「竜崎、それは皮肉か?それとも冗談か?」
 「冗談?まさか」
 真正面から突き刺すような月の視線を受け止めると、竜崎は唇の端を親指の先でぐいっと持ち上げて、笑った。
 「本気ですよ」










TEXT

If looks could kill, I would have been dead by now.
直訳すると「もし器量が人を殺すとすれば、私は今頃死んでいた」→彼(彼女)はすごい美形だ
という意味になるそうです。英治郎より。