L.A.コンフィデンシャル
YB倉庫で夜神月が死亡した10日後、東京拘置所内で魅上照は発狂死した。デスノートは焼かれ、夜神月も、魅上照も、みな灰になった。そしてキラ事件は一応の終わりを告げた。
キラ事件が終わった後、僕は何度も月くんの夢を見た。
それは捜査本部で僕と月くんが話している夢だったり、一緒に青山に行ったときの夢だったり、あるいは行ったこともない公園で、したこともない散歩を月くんとしている夢だったりする。
その夢は始まりがどこであれ、たいていL.A.のホテルを経由して、いつでもYB倉庫の中で終わる。
夢の終わりで、僕はいつも最後に拳銃を構える。
銃口の先には、夜神月が立っている。
誰を狙ってるんですか?松田さん。
月くんはそう言うと、哀しそうな目で僕を見つめる。
どうして僕を撃つんですか?
そう尋ねる彼の目は、穢れなく透き通っている。
松田さんは、僕の味方でしょう?
松田さん。
僕のことが好きだって言ったじゃないですか。
松田さん。
僕も松田さんのこと、好きですよ。
松田さん。松田さん。
まつださん。
そう言って僕の名前を呼ぶ甘く切ない彼の表情は、残酷なまでに甘美で、吐き気がするほどに淫猥だ。
僕は拳銃を構える。教本通りに正確に。拳銃の重さが、掌にずっしりと響く。両手でしっかり銃を握り、安全装置を解除し、撃鉄をあげ、引き金を引く。弾が発射された瞬間、痺れるような感覚が全身を貫く。弾は正確に彼の心臓を撃ち抜く。
彼は倒れる。心臓から流れ出る血がゆっくりと胸に広がっていく。彼は叫ぶ。喘ぐように掠れた声で。
どうして誰もわかってくれないんだ。
僕じゃない。僕はキラじゃないんだ。
その叫び声を聞いた瞬間、僕の心臓は鼓動を止める。僕はようやく理解する。
間違えた。僕はまた間違えた。
そうだ、彼はキラなんかじゃない。キラであるわけがない。彼はそう言ったじゃないか。そして僕は誓ったじゃないか。何があっても絶対に僕は彼の味方だ。と。
なのに、僕は彼を撃ってしまった。僕のこの手で。この拳銃で。
僕は必死で彼に駆け寄る。血の海の中に転ぶように膝をつき、彼の死体を抱こうとする。
すると、息絶えたと思った彼の死体は僕の腕を振り払い、ゆらりと立ち上がると、狂ったような笑い声をあげはじめる。
馬鹿なまつだ。馬鹿なまつだ。また騙されたまつだ。
演技だよ、全て演技。
僕がキラだよ。
おまえを騙して、誑しこんで、味方につけただけ。
みんな嘘っぱちだ。あの笑顔も、あの涙も。
なのに、なんで泣く?
同情か?
いったいおまえは誰を哀れんでるつもりなんだ? え?
結局おまえが可哀想だと思ってるのは、僕じゃなくて、おまえ自身じゃないか。
僕に騙され、裏切られ、馬鹿にされた。
まつだ。まつだ。間違いだらけの可哀相なまつださん。
そう繰り返しながら僕を嘲笑う彼の顔は、かつて僕が好きだった綺麗な横顔とはまるで別人で、悪魔のように醜く歪んでいる。
夢の最後で、悪魔はいつも笑っている。
夢から目を覚ましたとき、僕はいつも泣いている。
そして、枕の上にぐずぐずと鼻水を垂らし、ああもう警察なんて辞めたい仕事行きたくない今日こそサボってやる、と呪詛のように呟きながら布団をかぶり、それでも結局遅刻ギリギリになって立ち上がり、汚れたパンツを履き替え、歯ブラシを持って僕は駆け出すのだ。
裏返しのシャツを着て、地下鉄の駅に向かって。
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